記憶に残るコンサートは、冬に多いように思う。
たとえば、2012年12月23日「小山実稚恵ピアノ・リサイタル」は、冬の八ヶ岳ならではの印象深いコンサートだった。
その日、朝からちらちらと舞っていた雪は、開場の頃には本降りとなって、前半の最後、ちょうどバッハのシャコンヌを聴いていたとき、それは音楽堂に巻きつくような横降りの吹雪へと変わった。ゴォという音とともに揺れる音楽堂に、はじめはドキリとしたが、それはむしろ、神経が研ぎ澄まされていく・・・。会場全体がそんな雰囲気に包まれた。そして専属調律師も驚くほどに神がかったような演奏。きっと小山さん自身も特別な何かを感じていたに違いない。
季節ごとの魅力があるけれど、冬の音楽堂は音楽の純度を高めてくれる、そんな効果があるように思う。だから冬の八ヶ岳を愛してくれるアーティストも多い。この冬のコンサートは、まさに冬の八ヶ岳を愛してくれるアーティストの方々が揃う。
冬の音楽堂は、新しい音楽表現を生みだすのに最適な場所だ。今回3回目となるレジェンド・オブ・クラシックスは、2015年1月にここ八ヶ岳でうまれた。クラシックをベースに、様々なフィールドで活躍する3人が、クラシック音楽の新しい楽しみを表現する。純クラシックではないしマイクも使うが、イージーリスニングを連想してもらっては困る。クラシックの名曲が、緻密なアレンジと重厚なサウンドで生まれかわる。そして藤澤ノリマサという次世代を担う歌声にそのメッセージが託される。凛とした冬の夜空に彼らの願いを託したい。
レ・フレールの魅力は、その圧倒的なパワーだ。様々なパワーがあるけれど、レ・フレールのそれは、太陽のようにギラギラと発散されるというよりは、内に秘めている凝縮されたものの漲りが、音楽として変換されている・・・。そんな印象を受ける。だから、その重みや深みのあるパワーが冬の八ヶ岳には映えるのだ。雪にとざされることで、250席の空間が、まるで彼らのパワーの源と同化するような錯覚を覚えるのだ。
その透明な美しい歌声に、思わず天井を見上げながら聴いてしまう森 麻季さん。キラキラと光り輝く冬の八ヶ岳との相性は、言うまでもないだろう。まるで霧氷を思わせるような繊細で美しい歌声、そしてその清廉とした音楽への姿勢が、深々と降り積もる雪景色に投影されて、より深い感動となる。静寂を感じる冬だからこそ、繊細な音の端々のその先までを感じ取りたい。
どちらかというと小柄な加藤登紀子さん。しかし開演直前に舞台袖にあらわれる登紀子さんには、いつもはっとさせられる。毎回異なる鮮やかな衣装もそうだが、その表情、まなざしに目頭が熱くなる。そしてステージへと送り出すときの、その後ろ姿のなんと大きいことか・・・。舞台にかけるその決然とした姿は、才気に溢れた若い音楽家たちにも知ってほしいといつも思う。冬の八ヶ岳、白銀のステージこそ、その生き様ともいうべき「登紀子の世界」を描くにふさわしい。
八ヶ岳高原音楽堂の冬の代名詞といえば、東儀秀樹さんだ。2000年の初出演から、なんと15回!の冬の八ヶ岳を踏み、次回が16回目の冬となる。
軽々しく使いたくない言葉だが、東儀さんを一言で伝えようとすると「天才」という言葉が浮かぶ。音楽以外にも発揮されるあらゆる才能も、すべては音楽へと昇華してしまう。そして東儀さんの大きな魅力はその才能が決して冷たさを伴わないことだ。あくまでも音楽を一緒に楽しむために注がれているように思う。きっと、隅々まで知り尽くした冬の八ヶ岳と、観客との時間を共有できる音楽堂は、東儀さんの魅力を最大限まで堪能できるステージだと思う。
八ヶ岳高原音楽堂は“不便”なホールだ。
わざわざここまでお越しいただくからには、ここでしか聴くことができない音楽をお届けしたい。それは、音楽を通じて表現し得る四季を、音楽ホールという立場で表現すること、そして出演いただく音楽家の皆さんに、音楽堂をめぐる森羅万象をインスピレーションとして、音楽を奏でていただくことだと思う。
とりわけ冬の八ヶ岳は足が遠のく季節だ。しかし森の中の小さな音楽堂ゆえのメッセージを発信していくためには、冬という季節を大切にしたい。
どうか冬の八ヶ岳を愛していただきたい。
レ・フレール PIANO INFINITY
1月27日(土)午後3時30分開場/午後4時30分開演
コンサート詳細はこちら
森 麻季 ソプラノ・リサイタル
2月3日(土)午後3時30分開場/午後4時30分開演
コンサート詳細はこちら
加藤登紀子 Songs for Love
2月11日(日・祝)午後3時30分 開場/午後4時30分開演
コンサート詳細はこちら
東儀秀樹 銀世界リサイタル
2月24日(土)・25日(日)午後3時30分開場/午後4時30分開演
コンサート詳細はこちら
お問い合わせ:八ヶ岳高原ロッジ 電話:0267-98-2131