ミナ ペルホネン 皆川明さんと吉村順三

文:音楽堂スタッフ

皆川明。
ミナ ペルホネンという、日本を代表するテキスタイル・ファッション・ブランドを率いる。多くの人がその動向に注目する、日本のテキスタイル界のひとりである。

2018年5月、都内某所。
はじめて、皆川明その人に会う。
ご紹介いただいた、BEAUPAYSAGE岡本英史氏も同席といえども、非常に緊張する。そもそも、私はファンションやインテリアなどご縁がなく無知の骨頂。なおさら緊張する。
ここは、こじんまりとした、皆川さん行きつけの素敵な料理屋さんの中だ。
“超“が10回ぐらいつくほどの多忙の合間をぬって、来ていただけることになった、皆川氏を待つ。
同席には、製作者の丸谷さんや、前出の岡本さん、わが社きってのインテリア通Mなど。
今日は、「たためる椅子」とのコラボを、お願いするためにここにやってきた。

待ち構えていると、颯爽と皆川さんが現れた。
白いざっくりとしたズボンが印象的、とてつもなくお洒落。

挨拶をかわしたあと、たじたじと、早速、「たためる椅子」とのコラボ企画についてのお願いをする。
音楽堂のこと、吉村順三のこと、「たためる椅子」のこと。商品を作って、売るというよりも、八ヶ岳の素晴らしさや想いを届けたい・・・。
事前に岡本氏にだいたいのお話を伝えていただいたとはいえ、手に汗にぎり必死のお願い。

皆川さん、優しく落ち着いた眼差し。
「・・・是非やりましょう」。
二つ返事で承諾してくれた。
やったー!!
ほっと安堵。

緊張がとけたところで、目の前には、おいしそうな料理とワインが並び始める。

「ミナ ペルホネンの保養所は、軽井沢にあるのですが・・・、」
皆川さんは、ゆっくり、落ち着いた声で話し出す。
「建物は、実は吉村順三先生のご設計でしてね、改築を中村さん(※注:中村好文。建築家。「たためる椅子の」の共同デザインワーク者。)にお願いしたんですよ。」

「え?」
と思わず驚きの声。

「改築する際に、中村さんと『吉村先生だったら、どう直すだろうか』と言いながら、いろいろ直したんです。増築部分がありましてね。『これは吉村先生ぽくないなあ』なんて言って、調べてみたらやはり違って。その部分はとってしまいました。」
皆川さんと吉村順三との偶然の接点に、居合わせた一同はびっくり。
丁寧に作り上げた保養所は、いまや皆川さんやミナ ペルホネンの社員のとっておきの場所となっているという。

「実は、昔、ミナを立ちあげる前に目白のあたりで働いてまして・・・」
製作者の丸谷さんと織物のお話などで盛り上がったあと、またおもむろに皆川さんが口を開く。
「吉村順三事務所の前をいつも歩いて職場に通っていたんです。『ここが、吉村先生の事務所かあ』、なんて思いながらね。その頃は、中村さん(注:中村好文氏は吉村順三設計事務所に勤務していた。)もそこにいただろうし、不思議なご縁ですね。」
吉村への想いを語る皆川さんの言葉に、なぜか懐かしみを感じた。
なんだか、私達音楽堂のスタッフが、会ったことのない吉村順三について話すときに、重なった。

音楽堂を愛する人たちが繋いでくれた、「たためる椅子」と皆川明さん。
偶然で繋がった糸と思いきや、これは必然だったのかもしれない。
月日を経て、吉村順三が皆川さんを八ヶ岳高原音楽堂に連れてきてくれた。

「もともと祖父母が家具屋をやっておりましてね。家具は30年を超えて引き継がれていくのに、張り地の布はもたない。どうにかならないかなって。ずっと、そう思っていました。それが、この生地の出発点なんです」。
テキスタイル初心者の私に、丁寧に皆川さんが説明してくださる。
なんでも、デザインだけでなく、生地を織る工場を探すところからブランドをはじめたのだそう。

今回「たためる椅子」の張り地となる、ミナ ペルホネンの〝dop“という生地。
表と裏が異なる色できている。
皆川さんは、自社生地の凄さを全く口にださない。かわって、その凄さを、同席の、わが社きってのインテリア通Mが教えてくれる。
この〝dop“という生地は、50,000マーチンデールという、50,000回以上の摩擦で少しずつ生地が擦れ、隠れている裏の色が表れてくるという(!)
美しいデザインはもとより、この生地やブランド自体の考え方ゆえに、多くの人々が支持するのだと、納得。

「時間がたっていくと、テキスタイルでありながら年月とともに廃れるのではなく、少しずつ裏地の色があらわれ、新しい表情をのぞかせるんです。お母さんが買って、子供に引き継ぎ、子供がその裏地を見る・・・。」
皆川さんの、眼差しがあたたかい。

洋服の消費のこと、ミナ ペルホネンのこと・・・、その後もお話は続いた。
思慮深く、そして素敵なお話の一つ一つ。感心したり、ほっこりしたりして、夜は更けた。

ストーリー
2019/04/01 ミナ ペルホネン 皆川明さんと吉村順三
2019/04/01 たためる椅子誕生の秘話
2019/05/10 コラボバージョンは、吉野杉でつくりました。
2019/06/06 ミナ ペルホネンの生地“dop”はどんな生地?
2019/06/05 なぜか、自然ワインの第一人者、 岡本英史さんに椅子について聞く。
2019/05/10 たためる椅子のある風景
2019/06/06 お手入れ