コラボバージョンは、吉野杉でつくりました。

もともとオリジナルのたためる椅子は、本体が「ベイマツ」でできています。対して、今回のコラボバージョンは、「吉野杉」。その納得の理由を、製作者である丸谷さんにお聞きしてきました。

丸谷芳正さんのプロフィール

もくじ:
その1 「丸谷さんのことを、教えてください。」
その2 「なぜコラボバージョンは、吉野杉でつくったのですか?」
その3 「吉野杉で作ったことによる、メリット・デメリットを教えてください。」

その1

「丸谷さんのことを、教えてください。」

−−今日は、わざわざ八ヶ岳高原音楽堂まできていただいてありがとうございます。宜しくお願いします。

丸谷はい、宜しくお願いします。

−−今日は「たためる椅子」×ミナペルホネンの本体に使われている吉野杉についていろいろお聞きしたいです。
・・・なんですが、まずは、杉の話をする前に、たためる椅子の製作者である丸谷さんが、「たためる椅子」といったいどういう風に関わってこられたか、吉村順三さんとの関わりなど、簡単でよいので教えてください。

丸谷簡単にというのは難しそうね(笑)

−−すみません(笑)

丸谷吉村先生とのご縁は、もともと吉村先生のお弟子さんの奥村昭雄さんのもとで 長野県の木曽で5年間、家具の製作、販売していまして。その後、独立して、中村好文さんの紹介で吉村事務所との、仕事をするようになったんですよね。

−−私は、吉村順三さんともちろんお会いしたことはないのですが、すごく厳しいイメージがあるんです。その方と長くお仕事されるということは、お人柄とか、仕事の方向性にシンパシーを感じられたとか、そういうことはありますか?

丸谷まあ、最初は全く雲の上の人でしたからね・・・。吉村順三事務所とお仕事したとしても、担当者の人とのやりとりででね。先生と会うことも打ち合わせもなかったですね。でも先生が倒れられて(※吉村順三氏は晩年、脳梗塞を発症された。)からね、中村くんにいわれて先生に合う椅子とダイニングテーブルを作ったところから、先生と直接一対一で会うようになりましたね。
最初は、大先生・・・という心持でしたが、つきあってみると優しいところもあって。寡黙で饒舌に話すタイプではなかったですし、本もお書きにならなかった。そんなことで、先生のイメージというのは直接お付き合いしないと、なかなかわかりづらいところがあるのかもしれません。

−−雲の上の人・・・。

丸谷先生はよく「野武士のような」と表現されますがね。純粋で曲げないからでしょうか。でも、家庭に入るとピアニストの奥様と、ヴァイオリニストのお嬢様がいらっしゃって、家族で吉村先生の仕事を見守っている感じがしました。
今思うと、家の中で吉村先生と接することができたから、良い関係をきづけたのかな・・って。

−−割とプライベートな部分に入っていかれたという意味では、珍しいパターンの関わり方だったのでしょうか。
吉村先生の暮らしの中のものをオーダーされて、一緒にやっていたという意味では、面白いご関係ですね。

丸谷そういう運命だったんですね。

−−吉村先生の住宅にはお仕事をする前から、憧れのようなものはあったのですよね?

丸谷実はいいづらいのですが、そうでもないんです。(笑)

−−え!これって書いてもいいんですか・・・。

丸谷いやいやいや(笑)
以前から、写真集とか見ていたのですが、当時の僕には渋すぎてわからなかったんです(笑)

−−なるほど。

丸谷でも、吉村先生の現場に家具の納品で行き始めて、空間とかプロポーション・・・空間の質ですね、それを実際に感じるでしょう。家具納めるのは竣工間近なので、そういうところで先生の空間を味わうと、写真集で見るより、遥かに高貴だし、綺麗だし、贅沢しないし、質素だし、凛としてるし・・・。
そういうものを味わいました。
やっぱり、素晴らしいお仕事をされているなと思いました。
現場ではじめて、違うな・・というのを感じましたよね。

その2

「なぜ、コラボバージョンは吉野杉で作ったのですか?」

−−それでは本題、木についても教えてほしいです。もともと、オリジナルの「たためる椅子」はベイマツでできていますよね。
「ベイ」っていうからには・・・。

丸谷はい北米産です。ダグラスファーともいいますがね。明治のころからもうすでに、使われて、日本では昔から使われています。文化財にも使われています。たためる椅子オリジナルは、軽くしたいという目的があって、ベイマツを使用したんです。1980年後半は、国産材に比べて、はるかによく手に入ったんです。

−−ではオリジナルに使用した理由は、家具材として入手しやすいということと、軽かったということでしょうか。

丸谷はい、〝家具材”としては軽い方ということですね。
一般のナラ、カバだと、密度が0.7あるのですが、ベイマツは0.5きるぐらい。
「たためる椅子」は「たためる」というからには、持ち運びを想定していたんですよね。
そのためにやはり軽いことが絶対条件だったんです。

−−たためる椅子自体ができて30年。その間、ずっとベイマツを使い続けられていました。
ベイマツを使用することに、納得はされていたんですよね?

丸谷そうですね。その中では。

−−その、30年間納得がいっていたベイマツ。
今回の「たためる椅子」×ミナペルホネンで、「吉野杉」に変えようと思ったきっかけはなんだったんですか?

丸谷たためる椅子オリジナルを作った当時は、輸入材が市場のほとんどをしめていました。今僕のいる富山県も国産材の使用はたった数パーセントで、あとは輸入材。
グローバル化で、安い船賃で運ばれてくる輸入材に国産材が太刀打ちできなかったんです。
でもそれは、おかしな話でね。経済の仕組み上で起きたことだったんです。
でも時代みなおされて、国産材を使おうとする時代にかわってきました。

−−なるほど。

丸谷たためる椅子は、もともとは日本の生活の習慣である「座布団をしまって出す」というコンセプトがおおもとですから、 国産材を使うことは、もともと吉村先生が考えていたお考えに沿うと思ったわけです。
それで、現在安定的に供給できる吉野杉に着目しました。

−−確かに、たためる椅子ができた当時の時代では国産材は無理でしたでしょうけど、吉村先生のコンセプトには、もともと国産材の方があっていますね。

丸谷ええ。

−−でも数ある国産材の中で、なぜ杉なんでしょう?
オリジナルたためる椅子で使われていたベイマツも針葉樹ですよね?
普通、家具には針葉樹を使うのでしょうか・・・。

丸谷家具には圧倒的に広葉樹が多いですね。同じ体積・容積のわりに、密度があるので広葉樹の方が強いですね。
針葉樹は、割裂しやすい、つまり割りやすい。

−−え!コラボバージョンは、杉で作ってしまって、これ、割れてしまわないのですか?(笑)

丸谷それは大丈夫(笑) 実は、たためる椅子は、たたむために、設計上、寸法として強度的に余裕があります。
断面に余裕があるということですね。

−−なるほど。構造上の強度が強いために、杉の割れやすさをカバーしているんですね。

丸谷ええ。

−−杉は家具として、一般的によく使われていますか?

丸谷そうでもないですね。ただ、各都道府県で、杉の活用ということで取り組み始めてはいます。
でも杉は加工しやすいし、とっても素直。
日本だけの木ですから、それもとても良いですよね。

−−そうなんですね。日本古来の木だったとは、知りませんでした・・・。

丸谷そういう意味でも、杉は「日本らしい」。これが吉村先生のアイデンティティに近かったんですね。

−−確かに。杉はもともとのたためる椅子のコンセプトにあっていますね・・・。 時代が変わって進んだことで、30年前に椅子が開発された当時よりも、かえって吉村先生の想いに近づいた・・・。不思議ですけど、とても素敵なお話ですね。

丸谷今使っている吉野杉というのは江戸時代からの歴史があります。最終的には伐採にはだいたい250年かかっていますね。まあ。使っている木は、それはお任せしているので、特定はできませんけどね。職人技術の成した、とても素晴らし木だと思ってもらえばよいと思います。

その3

「吉野杉で作ったことによる、メリット・デメリットを教えてください。」

−−それにしても、このコラボバージョンの椅子は、持つと軽いですよね。

丸谷オリジナルたためる椅子のベイマツも広葉樹にしては、軽いですけどね。
でも、ベイマツバージョンが7kgに対して、杉バージョンは6㎏です。

−−たたんで、運ぶことを考えると、重量は重要ですよね。
でも何か、杉にしたことでデメリットはないのですか?
強度的には大丈夫とのことでしたが、その他に何かありますか?

丸谷デメリットとしては、やわらかいです。爪をたてるとへこみます。まあ、この柔らかさが杉の命でもありますがね。暖かくて柔らかい・・・。

−−まあ、今私はオリジナルたためる椅子のベイマツバージョンに座っていますけど。これだって爪を立てたりするとへこみますけどね・・・。

丸谷フローリングなんかでも、杉は人気ですが、経験のない人は最初はキズが気になりますが、使っているうちに気にならなくなりますね。
柔らかさが温かみでもありますからね。

−−触った感じも、とても良いですよね。
柔らかくて滑々して、ずっとさわっていたい~という気持ちになります。

丸谷塗装・・・も、今回は悩みました(笑)

−−悩んだというと?

丸谷せっかく、ここまで素晴らしい吉野杉なので、木の触感がそのまま伝わる塗装を・・・と思いました。

−−なるほど。

丸谷塗装に二つ分けるとすると、膜をつくる造膜系と、膜をつくらない非造膜系があるんですがね。
オリジナルのたためる椅子は、ポリウレタンを使っています。それでも膜を感じさせないようにしていたのですが、今回のコラボバージョンはこれだけ素晴らしい吉野杉なので、撥水セラミックを使いました。
ウレタンを使うと。膜をある程度残してしまうのでね。

−−今回は、非造膜系を使われたということですか?

丸谷ええ、撥水セラミックは材料にしみて、表面に膜をつくらないです。

−−どうも「撥水セラミック」という名前を聞くと、とても人工的なものに聞こえますが(笑)

丸谷まあ、鉱物的なものですよね(笑)
よく、自然系の塗装のリクエストがあるんですよ。一般に自然系というと、オイル系の自然塗料を想像するでしょ。
ただ、僕は針葉樹にはあわないと思っているんです。色むらもできやすいし。
個人的な主義主張もあると思いますが。まあ、濃い色のマホガニーや、ナラとかはよいと思います。

−−無垢にはしないのですよね。

丸谷塗装は、美的なものと保護の二つ意味がありましてね。
白木は難しいです。割りばしなどの使い捨てならよいですが、汚れはつきますし、梅雨時には湿気、寒くなれば暖房。家具として耐えられない。守らないといけない。

−−なるほど。

丸谷美的な観点としては、今回は木の触感がそのまま伝わる塗装を目指しました。

−−確かに、塗装していないかと思うほど、杉の柔らかい触感が伝わります。木目も本当に美しい・・・。

丸谷ありがとうございます。随分長くなってしまいました(笑)

−−いえいえ!これで、すべてお聞きできたような気がします。 今日は本当にありがとうございました。

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