中丸さんとは、あるバーで偶然に出会った。
かなり陽気に酔っ払っている女性が、まさか世界的なオペラ歌手だとは知らずに赤ワインを一緒に飲んだ。

「こないだ、ロスのゴルフ場で声をかけられて一緒に回ったオジサン、どこかで見たことがあると思ったら、刑事コロンボだったの」
「ピエール・カルダンに何度も食事に誘われて…」
「マイケル・ジャクソンのネバーランドに行ったら…」
　信じがたいエピソードが彼女の口から次々と飛び出す。挙句の果ては…
「もうすぐジェット機の免許をとるの。今、まだ仮免なんだけど」とまで言う。
その夜は“虚言癖のあるただの酔っ払い”だと思った。

数日後、ワインをご馳走してもらったお礼にと、数枚のCDが送られてきて、恥ずかしながら僕はその華麗なる正体を知った。しかもよくよく聞くと、あの夜の話は全て本当だった。

実に不思議な人だ。
世界的に認められた才能を少しもひけらかすことなく、あれだけ豪快に本当の自分をさらけだせるとは！

最近初めて、レコーディング前に楽譜をよんでいる中丸さんを見た。近寄りがたいほどのオーラを発しながら楽譜に向かい合っている。こちらの視線に気付くと、いつもの優しい表情でクスクスッと笑ってみせた。

かわいらしさと美しさ、情熱と冷静、相反する二つのものを、彼女は自分の中で見事に同居させている。
それが中丸三千絵さんの魅力だと僕は勝手に理解している。

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